羊は俯いて考える

理屈はこねくりまわすもの

Brexitを「感情」や「自国民意識」で片付けるのは危険だと感じる理由

最近ホットなイギリスのEU離脱問題を語る際、老若男女の視点などとは別に、EU離脱を「低所得」「低学歴」「感情で先走る」ひいては「レイシスト」などとカテゴライズされている意見を拝見します。一方でEU残留を「高収入」「高学歴」「ガーディアン読者」「経済/グローバル視点」などと呼称し、対比させているようです。

今回はこの二つの対比について移民問題の観点で考えてみようと思います。

 

予め断っておきますが、正しいか正しくないかについて述べているのではありません。感情を分析しようとしているのです。

 

 

The EU: why trade unionists should vote to leave | Communist Party of Britain Marxist-Leninist

 

 

私はイングランドで学位も取得し、長期で住んでいたことがあると言えど、あくまで日本人であり外国人としてそこに住んでいたわけで、本当のイギリス人の気持ちは察するしか方法がありません。今回は私なりに考え、その意見をまとめてみようと思います。

 

そういえば、今回の選挙で個人的に印象的だったことは、多くのイギリス人の友人が「老いも若きもどんな意見でも、選挙に行こう」とSNS上で呼びかけていたこと、そして「投票してきたよ」とタグ付きで投稿していたことです。スコットランド独立投票の時もこんな機運はなかった。国民の関心の高さと危機感を十分に感じた出来事でした。

 

 

 

 

まず、私が声を大にしていいたいのは、

「イギリスの労働者階級はレイシストではない!!!」

ということです。

私は労働者階級が比較的多い町で暮らしていたのですが、差別を受けたと感じたことも全くなく、人々はみなフレンドリーで優しかった。パブで飲んでいて、近くのテーブルのおじちゃん達と仲良くなってビールを奢り奢られなんてことも普通にある。むしろ、上等な身なりの方たちよりよっぽど人懐っこいと感じるくらい。

離脱派=イギリス人至上主義、レイシストだとは考えられない

(あえて注釈をつけるとしたら、「卒業後は日本に帰るの?イギリスで働くの?」と聞かれたときに「イギリスは大好きだけど、たぶん日本に帰るよー」と答えていたことで皆がより敵意なく接してくれたのかもと考えることもできますが、そんなこと関係なく基本的に優しかったと思います)(ちなみに私の同級生でさっさと自国に帰ったのは日本人とドイツ人くらいで他はなんだかんだイギリスに残ってるケースが多いです)

 

 

つまり、私が言いたいのは、

残留派と離脱派を上記のような条件で対比させる場合、重要なのは視点の違いだということです。

 

自分の立場に置き換えましょう。

例えば、私の仕事先に外国人の従業員が入ってきたとします。「日本語ワカラナイ、勉強シマス、ヨロシクオネガイシマス」と言われたら、私は拍手で出迎え、ゆっくり喋るように心がけ、公私に渡ってサポートします。アパート探しだって手伝います。彼の存在は会社の利益になり、ひいては日本経済の利となり、発展に必要な存在なのです。Warmly welcomeです。

 

しかし、例えば私の姪っ子が「あのね、わたしの小学校、4割くらいが外国人なんだけど、日本語ワカラナイ子が多いから先生が同じこと何回も説明して、全然授業が進まないの」と言えば、「それは問題だね」と答えると思います。

公的教育機関である以上置いてきぼりはできません。差別だと言われかねないのでクラス分けも難しいですし、したところで下のクラスをサポートする為には先生の数を増やすか、補習する必要があります。+αの先生の賃金はどうしましょう。税金でしょうね。

 

私が裕福ならそれでもいいですよ。「税金は税金、払いますよ」と思いますし、そもそも「うちの子は私立なんで、そっちはどうぞご自由に」といったところです。

 

しかし、もし私が税金を払うために、食費を削り、夏休みの旅行を諦め、そして支払った税金を使った公立小学校で子供が「満足に勉強できない」と言ったとしたら「ふざけるな」と思うのはやむを得ないように感じます。少なくとも、そう思う人を非難できません。

不満になり得る事柄は教育に限りません。NHSのGPが税金を払っていない人で混み合って何日も予約がとれなかったら?地価が下がったら?生活のありとあらゆる場面で不満を感じるキッカケは存在します。(現在だって電車で大声で騒ぎ立てている外国人がいたら「うるせえ」とイラッとすることだって時にはありますもの)

 

しかし、離脱を支持しているとされる人々も今まで我慢してきたと思うのです。理性で納得し、「他人に対するマイナスな感情を口にすべきでない」とし、不満を自分の中に溜めていました。国を追われた人々や国が貧しくて生活が苦しい人々だって気の毒だし、助けてあげたいとは思うけど、それほどの余裕は自分の生活にはないのです。

 

 

 

自分が正しいと思っている時、人は声高になる

 

人は、自分が正しい行いをしていると感じている時は声高になります。強調すると「私はグローバル視点に立ったリベラリストだ。ビジネスへの了見もある。決してあのようなレイシストではない」といった塩梅でしょうか。

 

一方で自分でもイケナイ感情だと分かっている時は誰にも言いません。「本当はフラストレーションが溜まっている。思うこともいっぱいある。でも口に出してはいけないことだから黙っている

 

そこへやってきた匿名投票の機会です。今まで「言うべきでない」とし、抑えてきた気持ちを一票として表すことのできる機会です。

それが、離脱派の票数が想像していたより圧倒的に多かった理由のひとつなのではないかと思っています。嫌いだとか憎いとか、ましてや低所得低学歴だから感情で動いている訳ではないのです。

 

国はこの票数に表れた意思を汲みとる義務があります。「離脱」か「残留」の二択ではありません。その選択に込められた気持ちをしっかり分析し、理解し、対処しなければなりません。それが投票というものです。

そうでないと、いよいよ堪えきれなくなった不満が暴発する危険性もあり、最悪の場合、人命に関わる事態になる可能性も0ではありません。

 

 

 

民主主義とは

 

ある意味で、この投票の結果は「民主主義のあるべき姿」のひとつではあると思います。声なき声を数で拾い上げたのです。

 

予め申し上げていた通り、私は決断が正しい正しくないかということを言いたいわけではありません。どのような結果であっても、どのような層がその選択をしたとしても、尊重しなければならない結果なのです。

 

その投票結果を「エリート層はこう考えている」とか「低学歴の意思など」と軽んじているようであれば、それはもはや名ばかりの民主主義国家です。

 

 

みんな、選挙に行こう!!!